広告主

ライオン株式会社福井幸二さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

見る人の心を揺さぶる何かをみんなで考えて作る

―― 自己紹介からお願いします

福井東京工芸大学デザイン学科で4年間広告、
デザインの勉強をして広告会社に8年勤め、
縁があって2015年にライオンに入社しました。

―― 入社のきっかけは?

福井高校生の時にドラッグストアでバイトして、
いろんな商品を見て、
かっこいいパッケージを作りたい
っていうところからデザインをやりたい
という思いがありました。


大学で映像に興味を持ち始めて、
中島信也さんからCMの話、
小山薫堂さんから人を楽しませる話を聞いて、
すごく楽しそうだなと思ったのがきっかけです。


宣伝会議のCMプランナー養成講座にも
通いました。

入った広告会社では
CMや映像の仕事が少なく、
前職の先輩が先にライオンに入っていて、
CMが作れるとのことでご紹介頂きまして、
入社しました。

―― 先生だった人たちと、今仕事をしています。

福井そうなんです。 嬉しい、ありがたい限りです。

―― ライオンに入って10年、
どんなものを作ってきましたか?

福井一番思い出に残っているのが、
口臭ケアブランドのNONIOです。
口臭ケア商材というと臭くなりたくない
というネガティブなものが解決されることが
セオリーだったのに対して、

ケアすると、こんないいことが訪れるよって
ポジティブなことを提案するところが
ポイントだったんじゃないかと思います。


そういう広告コミュニケーションを創っていくことが
楽しいと思いました。

―― 楽しかったですよね。他にはありますか。

福井最初はビューティーケア担当でした。
シャンプーのPRO TEC、ハンドソープの
キレイキレイや、制汗剤のBan、ボディソープ
hadakaraのローンチを担当しました。

そこからオーラルケア担当になって、
クリニカ、システマ、デントヘルス、Lighteeと
一通りやってきました。
ソフランやバファリンもやりました。

―― 今年からマネジャーになり、どうですか?

福井自身が担当していたブランドだけではなく、
どのブランドにも顔を出せるので、
やりがいを感じています。

―― 今のやりがいは?

福井いかに生活者の記憶に残る広告が作れるか、
作った広告を好きって言ってもらえるか
ということを、どうしたらもっと創れるように
なれるかを考え続けるのが今のやりがいです。

―― 歴史あるライオンの広告の中で、
好きなものはありますか?

福井いっぱいあります。
チャーミーグリーンを使うと手をつなぎたくなる
っていうCMですよね。
そして植物物語。
「この石鹸には物語があります」と、
製品にどんな思いが込められているか
パッケージを読むCMとか。

あとは「ちゃん リン シャン」ですね。
キャッチーなものからハートフルなものまで、
昔のCMの方が記憶に残るものが
多かったんじゃないかなと思って、
今、苦戦しております。

―― 何でですか?

福井何ででしょうね。
言いたいことが絞られてたんですかね、メッセージが。

生活者に伝わることが大事なので。
そもそも伝えたいことは何なのかは、
広告主がよく考えた上で提示すべきことなので、
クリエイティブ部署として責任をもって
主導していきたいと思っています。

―― 時代も違えば売るものも違い、
どっちが正しいか、永遠の課題では。

福井答えは全て生活者にあります。
生活者が好きって言うとか、
あれはいいねって言われない限り、
伝わりづらいんじゃないかと思います。

―― この10年でどんな時に喜びを感じていますか?

福井自分が携わったCMが、
好きって言ってもらえたり、
いいよねっていう声が聞けたり、
小学生が真似しているのを見たりとか、

生活者が反応してくれる、会話してくれる、
それが一番の喜びかな。

―― それは広告が届いたということ?
売れたじゃなくて真似してくれるのが嬉しい?

福井難しいところです。
広告主なので売れるのも大事ですが、
売れるのは広告が良かったからか
というとイコールじゃない。


いろんな要因や変数もあって、
そこに携わっている方々もいて
売れているものなので、
一部分ではあると思います。


CMを通して生活者の心が動いて、
その結果モノが動いたとなると、より嬉しいですね。
それが広告をやる意味かなと僕は思っています。

―― 広告制作において、働いていておかしいな?
と思うことはありますか?

福井本当は生活者がどうしたら心が動くかで
作るはずなのに、我々広告主サイドも
これを伝えたいという思いが先走ってしまい、
自分たちのエゴになってしまったり。


あるいは監督にしろ
クリエイティブディレクターにしろ、

こういうものが作りたいっていう
作ることが目的になって、
何のためにそれを作るのか、

辻褄が合わなくなっていると感じる時があります。

誰かのエゴになってないか。
アーティストではないので。
大事なことは、「伝える」じゃなくて「伝わる」。
一方的じゃなく、どうしたら伝わるかに向いて
やらないとおかしなことになる。

―― いつも冷静に判断できていますか?

福井いろいろな事情があるので、
十分にやりきれない場合もあります。
でもそういう心がけを持っていないと、
できないとも思います。

―― 僕ら制作会社サイドからしても、
これが本当にあっているのか。
クライアントが求めているものなのか。
広告会社が求めているものなのか。
スタッフが求めているのか。
ゴールを見失うのが怖いです。

福井目的意識、共通認識をどこに持つかを
作り上げることが大事だと思います。

―― それどうやって作るのがいいんですか?

福井見る人の心を揺さぶる何かを
みんなで考えて作ること。
制作スタッフとの信頼関係を築いていくことが
大事だと思っています。

当社の広告制作スキームは
総合広告会社さまに一元で依頼するのではなく、
制作プロダクションさまとの
直接取引にて実施しています。


そのかたちになって、制作に携わっていただく
様々な関係会社・パートナーの皆さまと
会話する機会が増え、同じ目的意識を持って
作れるようになったんじゃないかと思います。

―― やってみて、よかったですか?

福井すごくよかったと思っています。
オールスタッフで現場でも会話するので、
お互いが何を思っているのか分かり合えます。
そういうやり方でできるんだ、
こういうことでできないんだとか、
そういうことが欲しいのだったらこういうことが
できますと提案してくれるようになって、

すごく相互理解が深まり、
信頼関係が高まったと思います。


広告の良さは一人で作れるものじゃなく、
みんなのアイデアの集合体だからこそ価値がある。
いろんなスタッフの方々と仕事していると、
別の現場で会って、また繋がりが出てくる。
チームで作っていく感じがすごく好きです。

別の現場でもご一緒したスタッフの方と、
また違う案件でご一緒になることもあり、
今回もお願いしますねと。

ライオンだったらこういうこと言うだろうなとか、
福井だったらこういうところを
気にするだろうなって分かってくださっていて。

―― 福井さんたちは照明部とか
美術部の方まで知っています。

福井照明一つで全然見え方も違います。
美術もしかり、衣装もしかり、
何一つ欠けちゃいけないところです。


みんなのアイデアが素晴らしいクラフトを
作ると思うので、信頼関係があるほど
いいなと思います。


でも、これが直制作のスキームでないと
できないかというと、心持ち次第で出来ると思います。

そこに広告会社さまが介在していたとしても
広告主側ももっと踏み込んで会話してみるとか。
制作会社のスタッフの方々とも思い切って
直接話してみるとか。

―― 僕がこの業界入ったぐらいの時は
みんなが近かったんですよ。
この仕組みはコロナの時から始まりました。
どうなるのかなと思いましたが、うまくいって。
あんなにzoomをすることは
ないじゃないですか。

福井そこは危機感を持っています。
zoomで、オールスタッフを済ましてしまうところとか。
きちんと顔を見て名刺交換して、
お互いどういうことをやっているのか知るのは
大事なことだと思います。
いい撮影の空気感を作るためにも
事前の意見交換が非常にその後の仕上がりを
左右すると思います。


お金がいくらでもあれば何でもできちゃいますが、
限られた予算の中で、より良いものを
作りたいっていうスタッフの気持ちはあるので。


お金をかけない時にどこまでだったら削れるのか。
そこまで削りすぎちゃうとダメなのか。
クオリティとして要望したいことであっても、
予算にはまらないとすると、
その要望は一部取り下げる必要があるのか。

そこも会話していかないと難しいし、
そういったことも包み隠さず話してみると
解決策を提案してくれます。

だったら美術は、こうできますよ、
衣装こうできますよとか、
こういうことやったら解決するんじゃないですかと。

そういうやりとりがしっかりできると、
仕事に血が通っている感じがするんですよね。

広告主だからって気を遣われて
「お客様」扱いされたくない。
お客様気質で発言しちゃいけないし、
その雰囲気をまとわない方がいい。

スタッフの皆さんからも
遠慮なく話してくれた方が信頼できる。

―― 距離が縮まりましたか。

福井直制作で縮まるきっかけになっていますが、
気持ち次第なんだなぁって後で思いました。
オールスタッフに必ず呼んでくださいとか、
現場の人とも、もっと会話したいと言うだけでも
変わってくるし、
広告主側は出来るだけ
現場に立ち会った方がいいと思います。

そうすると何人のスタッフが携わっているんだとか、
どれだけの人がどういう思いで取り組んでいるかが
見えてくると、広告主側も依頼するとき
細部まで見え、指示、判断するときに違ってくる
と思います。

そこが分かっていて言うのか、
分からずに言うのかは圧倒的な違いです。

アングルチェックに行かないと撮影当日に、
「このアングルを変えてほしい」だと、
撮影も止まるし、タレントさんも待たせちゃう。

―― 広告主・広告会社・制作会社・スタッフの方々に
求めること

福井我々がお願いしたことが、
言われた通りに作っていただくとすると、
多分どの会社にお願いしても一緒で、
安いか高いかの話になると思います。

お願いしたものに対して、
違う視点、違う意見も含めて、どうするか、
一緒に考えて、時には違うと言ってもらえるからこその
パートナーだと思います。

―― うちの会社の人が時々びっくりしてます。
言い合いになっていて大丈夫ですか、
誰と電話しているんですか。
クライアントの福井さんと電話。(笑)

福井それが大事ですね。

―― そんな中で広告会社はじめ、
思い出深い人たちっていましたか。

福井いっぱいいて、それぞれ個性がありますよね。
そういう人たちと仕事すればするほど
積み重なっていきます。

また次お願いしたいなとか。
自分の想像以上のすごいものが
できるんじゃないかって期待とワクワクに
つながります。

―― 世の中でいろんな人たちがいるのは、
どうやって知りますか?

福井積極的に観るようにしてます。
気になるCMを誰かが見つけてきて、
スタッフは誰なのか、みんなで共有しています。
私自身もCM情報番組を見て、
気になるCMのスタッフは誰かと調べたり。


学生時代は雑誌で載っているクリエイターを
知ったりしていましたが、
今はACC AWARDSや広告電通賞、
JAA広告賞とか広告コンペの受賞作品は
スタッフリストまで見ています。

―― そういう人たちと、
やりたいなって思った時はどうしますか?

福井相談しますね。
内容に合うか、条件もそうです。
自分がこうしたいから、この人。ではなく、
生活者の気持ちをどう動かすかを考えた時に、
より良いものにしてくれるという期待を込めて
その人にお願いするのが合うかどうかを。

できるだけ固定概念を捨てることも
大事なのかなと思います。

―― いいと思っても、みんなの意見聞いて?

福井それは必ずします。
そうじゃないと、スタッフの希望や
いろいろな人の狙いを無視することに
なってしまうので。

―― みんなで勉強会は、
どのぐらいの頻度でやっていますか?

福井グループメンバーで月1回はやっています。
競合他社のものも観れば、
うちの業種以外の世の中全般、
どんな広告が流れているのか、観られているのか、
好感を得ているのかはすごく気にします。

―― 社内で、自社の広告を採点する
合評会をやっていますね。
目的は何ですか。

福井学習する組織にしたいという思いで、
以前からやっています。
自分たちが作った広告を振り返って、
良かったのか悪かったのかを議論し合う会議で、
社外の方にも採点をお願いしています。


自社製品への気持ちがあるので、
一般の広告表現者の人たちの視点との
ズレがあることを知ることが大事です。

大事なのは採点の後、
どうやって改善していくのが良いかという
話し合いです。

―― 広告業界をキラキラさせるために必要なことはなんだと思いますか?

福井見る人の心を揺さぶる何かを
みんなで考えて作ることが必要だと思っています。

昨今、広告が邪魔なものだと
生活者に思われてしまう傾向がすごく悲しいです。
とにかくスキップされちゃう。

お金払ってでも広告を見られないようにしたい
という人もいて。この傾向を変えていくような
広告表現を作っていきたいと思っています。
そうすると広告を作ることに魅力を感じる人が
増えるんじゃないかなと思います。


制作するときに、スキップされることを
前提にした作りかたは絶対したくない
と思っています。
基本は観たくなるものを。

先日、佐藤雅彦展(横浜美術館)に行ってきました。
お金を払ってみんな観に来る。
45分間観られるシアターに、みんな並んで、
じっと座ってずっとCMを観続ける。
子どもも初めて観てゲラゲラ笑っている。
おじいちゃんおばあちゃんも
「懐かしい、こういうのあった」って。

その空間がすごく素敵で、
ずっと愛される広告を広告主としても
作っていかないといけないと思いました。


制作会社、スタッフの皆さん一人ひとりの
アイデアの集合体でないと実現できないので、
みんなで共通の目的目標を持って
作り上げていきたいと思ってます。

―― どうやったらああいうの作れるんですかね。

福井ああいうことを作ろうっていう思いがないと
できないと思います。

―― あの頃の広告って、
みんながずっと観てるじゃないですか。
なんであの頃できたのに
今の僕たちはやってないんだろう。

福井今は、効率を優先するあまり、
「広告」が「インフォメーション」になってしまっている
のかもしれません。

我々は制作に携わるものとして、
心を揺さぶる部分は何なのか、
記憶に残るには何かを考えていく必要がある
と思います。一方通行にならないようにね。


セミナーに登壇させて頂く際に、
よく言っているのは、
人と仲良くなりたい時に相手のことを知らないと
いけないし、
自分をよく知ってもらうには、
自分の何を言えば興味を持ってくれるか
考えないといけない。
どのタイミングでどういう言い方したら、
この人は自分のこと気にかけてくれるかなって。

ちょっとでも振り向いてくれるかっていうことを、
常に考えてそれがこの広告表現の中に
どこなんだっていうところをプロットしていかないと
いけないんでしょうね。
一人じゃできない。

いろんな人たちの力を借りながら
一緒に作れるところが魅力に変わってくると
いいなと思います。


今、若い方々は自分たちで
自己表現して発信できるメディアが増えています。
昔は自分を表現しようとしたら、
紹介されるとか、テレビに流れる
といったような方法でした。


手軽に自己表現できるようになって
それはそれで良いのですが、
いろんな人たちの力を借りながら
自分以上のものがどうやったら作れるか。

こういう業界に来て一緒に作るからこそ、
生まれるものがあるのではと思います。

一人じゃできない。だからこそ楽しいし、
可能性が広がるのではないでしょうか。

福井 幸二(ふくい こおじ)

ライオン株式会社
ビジネス開発センター コミュニケーションデザイン
クリエイティブグループ マネジャー
東京工芸大学芸術学部デザイン学科卒業後、広告会社に入社。8年従事した後、2015年にライオン入社。キレイキレイ、クリニカ、システマ、NONIO、バファリンなど、各ブランドのクリエイティブ制作を担当。
2025年1月よりマネジャーとして、国内一般用消費財事業全般のクリエイティブ制作に携わり現在に至る。
公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員会ワーキングメンバー/クリエイティブ塾・「超」基礎講座講師

  • 聞き手/株式会社キラメキ
    プロデューサー
    小林 礼二
  • 記事公開日/2025.12.1
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